テレビ局が視聴率20%超を連発する人気占い師に平伏していた2006年夏、講談社が発行する『週刊現代』が仕掛けたキャンペーン報道は、まさにメディア界への宣戦布告でした。民放各局がゴールデンタイムに冠番組を並べ、大手芸能事務所や有力プロデューサーですら機嫌を伺っていた当時、細木数子という存在は触れてはならない絶対的なアンタッチャブル。そこへ風穴を開けたのが、闇社会や新興宗教の取材で知られるノンフィクション作家の溝口敦氏でした。
週刊現代編集部が勝負に出た背景には、単なるスキャンダリズムを超えた明確なジャーナリズムの危機感がありました。占いという個人の信仰領域を盾に取りながら、弱者の不安を煽って数千万円単位の墓石を売りさばき、さらには電波を使って世論を誘導する手法に対し、大手メディアが沈黙を続けていたためです。「テレビが持ち上げ、巨万の富を得ている人物の実像をこのまま放置していいのか」という現場記者の義憤が、講談社幹部を動かしました。
対する細木氏側は、記事の掲載直後から激昂。テレビ番組内での強気な発言のみならず、顧問弁護団を総動員して講談社、週刊現代編集長、そして溝口敦氏個人を相手取った総額約6億円(のちに関連記事を含め数十億円規模に拡大)の名誉毀損損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起します。権力と資金力にものを言わせた法的手続きによって出版差し止めと取材網の沈黙を狙ったものの、受けて立つ講談社側は一歩も引かず、両者の戦いは抜き差しならない全面戦争へと突入していきました。