本作の最大の魅力は、吉野千明と長倉家を取り巻く濃厚な人間模様にある。長倉家の三男で天使のように優しいカフェ店主・真平(坂口憲二)、極度の人間嫌いで千明に心を開いていく双子の妹・万理子(内田有紀)、奔放で口うるさいが家族思いの長女・水谷典子(飯島直子)。この鉄壁のアンサンブルキャストの「現在」は、ドラマ放映当時以上のドラマチックな変遷を遂げている。
もっともファンの胸を打ったのは、真平役を演じた坂口憲二の動向である。坂口は2018年、国指定の難病である「特発性大腿骨頭壊死症」の治療に専念するため、無期限の芸能活動休止を発表した。当時は俳優引退も囁かれ、オリジナル焙煎豆ブランド「The Rising Sun Coffee」を立ち上げてコーヒー焙煎士としてのセカンドキャリアを着実に築いていた。しかし、病状の回復と過酷なリハビリを経て、2023年春のフジテレビ開局65周年特別企画ドラマで電撃的な俳優復帰を果たす。その後もCMや映像作品への出演を順調に重ね、現場の第一線へと力強く戻ってきた。
主演の小泉今日子は、2018年に所属事務所から独立し、自ら立ち上げた制作会社「明後日」の代表として舞台のプロデュースや演出、執筆業を精力的に展開。自由で筋の通った生き方は、まさに吉野千明そのものと重なり合う。相方を務めた中井貴一も、映画や舞台で重厚な存在感を放ちつつ、コメディからシリアスまで日本屈指の演技派として君臨し続けている。千明と中井貴一の阿吽の呼吸による掛け合いは、長年の信頼関係があってこそ成立した至芸であった。
さらに、万理子役の内田有紀は、年齢を重ねるごとに透明感と演技の深みを増し、数々の大作ドラマで不可欠なバイプレイヤーとして高評価を獲得。長女・典子役の飯島直子も、飾らない等身大のライフスタイルを綴ったエッセイや情報発信が同世代の女性から圧倒的な共感を呼び、2020年代に入り再び脚光を浴びている。主要キャスト全員が人生の波を乗り越え、それぞれの持ち場で円熟味を増している事実は、作品のリアリティをさらに底上げしている。