物語の主人公、左右田一平。かつて芥川賞候補にまで名を連ねながら、今は大衆小説を手がけつつ慎ましく暮らす中年男性だ。彼の生き方は、決して世間一般の「成功者」の型にはまらない。安アパートに住み、贅沢品とは無縁の生活を送る。だが、彼の内面は誰よりも豊かで、自由だ。
息苦しさを増す現代社会において、他人の評価や数字に振り回されない左右田のスタンスは、ある種の救済として機能している。見栄を張らない。世評に媚びない。自分の舌と感覚だけを信じて生きる姿勢は、同調圧力に晒され続けるビジネスパーソンの胸に鋭く突き刺さる。