注文した丼が運ばれてきた際、初めて訪れた観光客の多くが「この蓋はどうすればいいのか」「どこから箸をつければいいのか」と戸惑います。カツが丼一面を覆い尽くしているため、そのままでは下の白米に辿り着くことすらできません。ここに、地元で長年受け継がれてきた機能美あふれる作法が存在します。
実は、斜めに乗せられた丼の蓋は単なる飾りでも埃除けでもありません。「上段のカツを退避させるための取り皿」として設計されているのです。
正しい食べ方のステップは極めて合理的です。まず、蓋を静かに外して裏返し、テーブルの上に置きます。続いて、2枚重なっているカツのうち、上の1枚を蓋の上に移動させます。これで視界が開け、タレが適度に染み込んだ白米が顔を出します。あとは、丼に残したカツとご飯を交互に食べ進め、1枚目を平らげた後に蓋の上のカツを丼へ戻すか、そのまま蓋から口へと運ぶのです。この作法を守ることで、衣のサクサク感を維持しつつ、ご飯と肉の最適なペース配分を最後まで崩さずに堪能できます。
また、「あの味を自宅でも再現したい」というファンのために、現地の調理工程を取材して導き出した家庭用再現レシピの黄金比を公開します。
【わらじカツ丼の秘伝ダレ(2人前分)】
・醤油:大さじ4
・本みりん:大さじ3
・酒:大さじ2
・ざらめ(または上白糖):大さじ2.5
・和風顆粒出汁:小さじ1/2(または昆布出汁50ml)
小鍋にすべての材料を入れ、弱火でざらめを完全に溶かしながらひと煮立ちさせます。アルコール分が飛んだら火を止め、粗熱を取ります。豚ロース肉はラップを被せ、すりこぎ等で厚さ約5mmになるまで丁寧に叩き伸ばすのが最大のコツ。細目のパン粉をまぶして175度の油でカラッと揚げたら、油を切る暇もなく熱々のうちにタレの鍋へ直行させ、両面を素早く潜らせて白米の上へ載せれば、秩父現地の風味が食卓に蘇ります。