リング上で発生する頸椎・脊髄損傷の重大事故は、決して単一のエラーだけで引き起こされるものではありません。事故の背景には、技の過激化・インフレ化、連戦による慢性的なダメージの蓄積、そして試合中のわずかな受身のズレや相手選手との呼吸の不一致といった複合的な要素が絡み合っています。
プロレスにおける脊髄損傷の原因と経緯を振り返ると、大技を繰り出した瞬間だけでなく、基本技や返し技の攻防の中にも危険が潜んでいることが分かります。高山善廣選手が受傷したのは、2017年5月のDDTプロレス大阪・豊中大会でした。試合中、相手への回転エビ固め(サンセットフリップ)を仕掛けた際、頭部からマットに激突。自力で動くことができなくなり、救急搬送の後に「頸髄不全損傷および変形性頸椎症」と診断されました。強靭な首を誇り、数々の過激なファイトを戦い抜いてきたベテランであっても、タイミングと角度の狂いによって悲劇に見舞われたのです。
また、2022年4月のZERO1両国国技館大会で起きた大谷晋二郎選手の事故は、コーナーマットへの投げっぱなしジャーマンスープレックスを受けた際に発生しました。ターンバックルに後頭部から首にかけて強い衝撃を受けた大谷選手は、レフェリーの呼びかけに「手足が動かない」と訴え、試合は即座にストップ。診断は「頸髄損傷」でした。激闘を信条としてプロレス界を牽引してきた熱血戦士の身体に、予期せぬ角度で破壊的なエネルギーが直撃した瞬間でした。