ネット上の言論やSNSでは、「内閣に任命権があるなら、政権に都合の良い判決を出す裁判官ばかりが優遇されるのではないか」という疑念がしばしば語られます。しかし、実際の制度設計と運用実態を照らし合わせると、そこにはいくつもの強固な制度的ブレーキが存在します。
第一に、最高裁判所判事の選考基準における「出身母体のバランス配分」という長年の慣例です。最高裁の15名の裁判官は、一般的に以下のような配分で選考されています。
- 裁判官出身枠:およそ6名(東京高裁長官などの上級裁判所幹部から登用)
- 弁護士出身枠:およそ4名(日本弁護士連合会の推薦枠)
- 検察官出身枠:およそ2名(次長検事や高検検事長経験者)
- 行政官(官僚)出身枠:およそ2名(内閣法制局長官や外務省条約局長経験者など)
- 法学者(大学教授)出身枠:およそ1名(憲法・民法・刑法などの著名な法学者)
このように、日弁連の推薦や学界の評価といった外部の専門的知見が不可欠な選考ルートが組み込まれており、行政府が恣意的に特定のイデオロギーを持つ人物だけで固めることは極めて困難です。
第二に、一度任命された裁判官に対する極めて手厚い「身分保障」です。裁判官は、職権の行使において完全に独立しており、心身の故障による場合を除き、行政機関による懲戒処分で罷免されることはありません。重大な非行があった場合でも、国会に設置される裁判官弾劾裁判所 罷免の判決を受けない限り、意に反して職を解かれることはないのです。さらに、衆議院議員総選挙と同時に実施される最高裁判所裁判官国民審査によって、主権者による直接の罷免チェックを受ける仕組みも確立されています。