コアラのマーチが日本で初めて発売されたのは、オーストラリアから生きたコアラが初めて来日し、日本中が空前のコアラブームに沸いた1984年(昭和59年)3月のことでした。発売当時の希望小売価格は1箱100円(税抜)。サクサクのビスケットの中にまろやかなチョコレートを注入し、手を汚さずに食べられる画期的な構造と愛らしい絵柄で、瞬く間にメガヒット商品へと登り詰めました。
その後、消費税の導入(1989年:3%)や税率引き上げ(1997年:5%、2014年:8%、2019年:軽減税率8%維持)を経ながらも、ロッテは長年にわたり企業努力によって「1箱100円台前半」の実売水準を死守してきました。しかし、2022年以降の数年間で、菓子業界を取り巻くコスト環境は歴史的な激変を迎えることになります。
ロッテの公式発表資料や業界統計を照合すると、2022年から2025年にかけて複数回にわたる出荷価格の引き上げが断行されました。その引き金となった構造的な背景には、3つの決定的な要因が存在します。
第一の要因は、世界的な「カカオショック」です。主産地である西アフリカ(コートジボワールやガーナ)における異常気象や病害の蔓延により、ニューヨークやロンドンのカカオ豆先物市場は過去最高値を更新する異常事態に陥りました。チョコレートの主原料であるカカオマスやココアバターの調達コストが倍率単位で跳ね上がったことは、製菓メーカーにとって自助努力の限界をはるかに超える痛手となったのです。
第二に、ビスケット生地に不可欠な小麦粉、油脂(植物油脂やパーム油)、砂糖といった副原料の国際価格高騰と、歴史的な円安進行の複合的影響です。原材料の多くを輸入に頼る日本の菓子産業において、為替変動と原油高に伴う包装フィルム・紙器カートン代の上昇はダブルパンチとなって製造原価を押し上げました。
第三に、物流の「2024年問題」に端を発する輸送・保管コストの底上げと、深刻な人手不足に伴う製造ラインの労務費上昇です。公式プレスリリースでも「エネルギーコストや物流費の上昇が続いており、中長期的に高品質な商品を安定供給するため」との説明が繰り返されており、単なる利益追求ではなく、製品供給インフラを維持するための苦渋の決断であった事実が窺えます。