私たちが運動会で無心にステップを踏んでいた楽曲には、単なる「楽しい踊り」にとどまらない、発祥国の苛酷な歴史や人々の祈りが込められています。その背景を知ることで、踊りの持つ文化的輪郭が一層鮮明になります。
1. オクラホマミキサー:過酷な開拓移民の知恵から生まれた「交流システム」
日本で「オクラホマミキサー」として知られる楽曲は、元来はアメリカ民謡の「藁の中の七面鳥(Turkey in the Straw)」という曲です。「ミキサー(Mixer)」とは楽曲のタイトルではなく、ダンスの途中で次々にパートナーを交換していくダンス形式そのものを意味します。
19世紀、アメリカ中西部を開拓した移民たちは、広大な未開の土地で過酷な労働に従事していました。孤立を防ぎ、限られた入植者コミュニティの連帯を深めるため、定期的に納屋(バーン)に集まって行われたのがスクエアダンスやミキサーダンスでした。「特定の相手だけに固執せず、参加者全員と平等に踊りを交わす」というプロトコルは、多民族が混在する新天地で平和的な人間関係を構築するための、生活の知恵そのものだったのです。
2. マイムマイム:不毛の砂漠で水脈を掘り当てた入植者の狂喜
キャンプファイヤーで炎を囲み、最高潮の盛り上がりを見せる「マイムマイム」。この曲は、20世紀前半にパレスチナの荒野へ入植したユダヤ人開拓民(キブツの労働者たち)によって作られたイスラエル舞踊です。
「マイム(Mayim)」とはヘブライ語で「水」を意味します。旧約聖書の「イザヤ書」第12章第3節にある『汝ら歓喜のうちに救いの井戸より水を汲まん』という一節を歌詞の根底に据えています。乾ききった不毛の砂漠を開墾し、幾日も掘り進めた井戸からついに真水が噴き出した瞬間に、開拓民たちが手を叩き、輪になって踊り狂った実話に基づいています。円の中心へ駆け寄るステップは「湧き出る井戸の水源へ駆け寄る歓喜」を表し、両手を天に掲げる所作は「恵みの水への感謝」を具現化したものです。
3. コロブチカ:行商人の青年と村娘の切ない恋路を描いたロシア民謡
電子ゲームのBGMとしても世界的に親しまれている「コロブチカ(Коробейники)」は、19世紀ロシアの詩人ニコライ・ネクラーソフの長編詩をもとにした民謡です。「コロブチカ」とは、行商人が肩から吊り下げていた「小箱(行商箱)」を意味します。
行商人の青年がライ麦畑の中で美しい村娘カチャと出会い、小箱の中のキャラコ(更紗)や指輪を見せながら愛を語り合う情景が歌われています。ステップのテンポが徐々に加速していく構造は、二人の高鳴る鼓動と、夜明けとともに出立しなければならない行商人の焦燥感を象徴しています。