4歳の少女が初めてリンクに立った時から、中野園子コーチは坂本の才能と負けん気の強さを見抜いていた。神戸のリンクで重ねられた日々の稽古は、決して甘いものではなかった。中野コーチの指導は「妥協を一切許さない」ことで知られているが、その根本にあるのは選手に対する深い愛情だ。
「花織の良さは、どんなに厳しい言葉をかけても逃げずに受け止める強さがあること」。中野コーチはかつてそう語っている。試合直前の緊張感漂うリンクサイドで、中野コーチが坂本の頬を強く叩いて気合いを入れるシーンは、ファンにとってもおなじみの光景だ。あの力強いスキンシップこそが、坂本の心を一瞬で戦うモードへと切り替えるスイッチとなっている。
世界女王となった今でも、2人の間にある空気感は変わらない。リンクを離れれば、まるで年の離れた親子や仲の良い師弟のように笑い合う。このオンとオフの切り替えの巧みさと、長年培われた揺るぎない相互信頼こそが、大舞台でプレッシャーに押し潰されない最大の理由なのだ。