切手コレクターや美術愛好家のコミュニティで頻繁に見られるのが、「見返り美人」と「ビードロを吹く女」の混同です。どちらも日本の切手を代表する浮世絵デザインであるため同一視されがちですが、作品の成り立ちも美術的なアプローチも根本から異なります。
まず作者と時代が違います。『見返り美人』は江戸初期(延宝年間)に活躍し「浮世絵の祖」と称された菱川師宣(ひしかわもろのぶ)の肉筆画(一点物の絵画)です。切手趣味週間としては終戦直後の1948年(昭和23年)に発行されました。一方の『ビードロを吹く女』は、江戸後期の錦絵黄金期を代表する喜多川歌麿による多色摺り木版画で、切手化されたのは7年後の1955年です。
表現技法においても、師宣の『見返り美人』が女性の歩行中にふと振り返った「全身の優美なS字ラインと後ろ姿の美」を捉えているのに対し、歌麿の『ビードロを吹く女』は上半身のクローズアップによって「顔の微細な表情と内面心理」を浮き彫りにしています。「動きの美」を描いた師宣と、「感情の息づかい」を描いた歌麿。この対比を理解しておくと、浮世絵鑑賞の解像度は格段に深まります。