「柏」という漢字に触れる機会として圧倒的に多いのが、5月5日の端午の節句に欠かせない和菓子「柏餅」です。柏餅の由来と意味を紐解くと、単なる季節の味覚にとどまらない、武家社会の切実な祈りが込められていた事実が判明します。
植物学的に見ると、日本のカシワ(ブナ科コナラ属)は落葉広葉樹でありながら、冬になっても枯れた葉が枝についたまま残り続けます。そして翌年の春、新芽(次の世代の若葉)がしっかりと芽吹いて育つまで、古い葉が自ら落ちることはありません。この生態的特徴が、江戸時代の武士階級の目にとまりました。
「古い葉が落ちずに新しい葉の成長を見届ける」姿が、「親が生きて次の跡継ぎが立派に育つまで見届ける」「家督が途絶えない」「お家断絶を防ぐ」という子孫繁栄の強力な吉兆と結びついたのです。戦国時代の名残を残す江戸初期から中期にかけて、跡継ぎの不在が即座に改易・家名取り潰しを意味した武士たちにとって、柏の葉で包まれた餅はまさに命がけの縁起担ぎでした。
現代の和菓子業界における実態調査データでも、この食文化の地域差と歴史性が裏付けられています。カシワの自生地が多い東日本(関東・東北)では現在も本物のカシワの葉を用いた柏餅が主流ですが、自生地が少ない西日本(関西・四国・九州)では、古くから自生していたユリ科の「サルトリイバラ(別名:サンキライ)」の葉で包む伝統が今なお約4割以上の和菓子店で受け継がれています。
また、インターネット上の知恵袋やSNSで毎年端午の節句の時期に議論となる「柏餅の葉は食べるのか?」という疑問ですが、公式な和菓子の作法としては「食べずに剥がす」のが正解です。カシワの葉は食物の乾燥を防ぎ、移り香を楽しみ、抗菌作用を持たせるための包装材として機能しており、筋が非常に硬く消化に適さないためです。桜餅の葉(塩漬けされたオオシマザクラ)のように柔らかく一緒に食べる設計にはなっていない点も、生活の知恵として押さえておきたいポイントです。