本作を深く理解する上で避けて通れないのが、シャロン・テート殺人事件の真相と、首謀者であるチャールズ・マンソンとカルト集団「マンソン・ファミリー」の実像です。1969年8月9日の未明、当時26歳で妊娠8ヶ月だった新進気鋭の女優シャロン・テートと、元婚約者で著名ヘアスタイリストのジェイ・セブリングを含む友人ら計5名が、ロサンゼルスの自宅で無残に命を奪われました。
カルト集団の指導者チャールズ・マンソンは、自らをキリストの生まれ変わりと称し、社会からドロップアウトした若者たち(主に若い女性たち)を言葉巧みにマインドコントロール下に置いていました。マンソンはビートルズの楽曲『ヘルター・スケルター』を「白人と黒人の最終人種戦争」の予言だと歪曲して解釈し、その戦争を誘発するための見せしめとしてセレブリティの無差別殺害を信奉者たちに命じたとされています。しかも、事件の現場となった邸宅は、かつてマンソンの音楽デモテープを酷評して契約を拒否した音楽プロデューサーのテリー・メルチャーが以前借りていた物件であり、シャロンらは物件の新しい住人というだけで無差別に標的とされた悲惨な巡り合わせでした。
劇中でクリフがヒッチハイクの少女プッシーキャットを送り届けるスパーン映画牧場の怪異と経緯も、歴史的事実に基づいています。かつて多くの西部劇映画が撮影されたこの広大な牧場は、高齢で盲目となったオーナーのジョージ・スパーン(劇中ではブルース・ダーンが好演)の歓心を買ったマンソン一味に不法占拠され、コミューンと称するカルトの潜伏拠点として利用されていました。埃っぽい廃墟のような牧場に漂う異様な緊張感と、ヒッピーたちの空虚な視線は、当時のアメリカ社会に忍び寄っていたカウンターカルチャーの暗黒面をリアルに再現しています。