多くの経験者が「地獄のような時間」と語る現象は、決まって密室であるトイレの中で発生します。突然生じる迷走神経反射と下痢の激痛は、腹部にとどまらず全身の循環系を巻き込むパニックを引き起こします。
初期段階では、下腹部を雑巾のように絞られる猛烈な疝痛(せんつう)から始まります。排便しようと息んだ直後、突如として毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出し、強い吐き気やめまいが襲来します。続いて耳鳴りが響き、冷や汗や吐き気、目の前が真っ暗になる感覚(ブラックアウト)や白く霞む視野障害(ホワイトアウト)が起こり、全身から急速に力が抜けて座位を保つことすら困難になります。
救急医療の臨床データや消化器内科の診療知見においても、トイレでの排便時の失神原因として最も頻度が高いものがこの迷走神経反射です。患者は「意識が遠のく恐怖」に直面しますが、この一連の症状は意志の強さや体力の有無とは一切関係がありません。身体を守るはずの神経ネットワークが、過剰な刺激に対して過誤作動を起こしている状態なのです。