1994年11月30日、福岡市内の二子山部屋宿舎で行われた横綱伝達式。日本中のメディアが中継で見守るなか、日本相撲協会の使者を迎えた若き新横綱は、背筋をピンと伸ばし、澄んだ眼差しで力強く口上を述べました。
「謹んでお受けいたします。今後も不撓不屈の精神で、相撲道に精進いたします」
この瞬間に発せられた「不撓不屈(どんな困難や苦労にも挫けず、強い意志を持ち続けること)」という四字熟語は、瞬く間に列島中を駆け巡り、同年の流行語となるほど社会的なインパクトを与えました。
この口上の選定には、単なる形式美を超えた深い背景がありました。父であり師匠でもある二子山親方(元大関・貴ノ花)は、現役時代に怪我と闘い続け「悲運の大関」と呼ばれた名力士です。父が果たせなかった夢の最高位に手をかけながらも、周囲のバッシングや度重なる重圧に耐え抜いてきた貴乃花自身の苦闘。それらすべてを飲み込み、いかなる試練にも屈しない覚悟を誓った言葉こそが「不撓不屈」だったのです。