慣用句としての正しい表記は「虫酸が走る」、あるいは「虫唾が走る」と書き、正しい読み方は「むしずがはしる」です。現代仮名遣いでは「むしづ」と表記されることもありますが、いずれにせよ「虫さん」という敬称や幼児語の要素は微塵も含まれていません。
辞書的な意味としては、「吐き気を催すほどに強い不快感や嫌悪感を覚えること」を指します。ここで極めて重要なのが、「虫酸(むしず)」の正体は生きた昆虫ではなく、胃から口の中へ逆流してくる酸っぱい消化液、すなわち「胃酸」そのものであるという点です。
医学的には「呑酸(どんさん)」や「逆流性食道炎」に伴う胸焼けとして知られる症状であり、強いストレスや精神的ショック、あるいは極度の拒絶反応に直面した際、自律神経の乱れから胃液が食道を駆け上がり、口腔内に酸味と灼熱感をもたらす身体反応を指しています。つまり、皮膚感覚の「ゾワゾワ」ではなく、内臓からせり上がる「ゲップのような酸っぱい液の逆流」こそが、この言葉の根源にあるリアルな実態なのです。