師弟関係の決定打となったのが、シェイクスピアの最も凄惨な悲劇とされる舞台『タイタス・アンドロニカス』だ。
2006年、イギリス・ストラトフォード・アポン・エイヴォンでのロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)主催フェスティバル。演劇の本場に乗り込んだ蜷川カンパニーの中で、エアロン役を演じた小栗旬の存在感は異彩を放っていた。英語の壁、アウェイの視線、そして演出家からの苛烈なプレッシャー。言葉を超えた叫びと、全身から発せられる圧倒的な熱量に、本場の観客は立ち上がって惜しみない拍手を送った。
終演後、楽屋で互いを称え合った瞬間の空気感を、当時の関係者はこう語る。「蜷川さんは言葉少なく、ただ小栗さんの肩を強く抱きしめていた。怒号ばかりだった男が見せた、ほんのわずかな眼差しの温もり。あれこそが、彼らが言葉抜きで通じ合った瞬間だった」と。