なぜ、生梅をそのままコトコト煮込む伝統的な製法よりも、一度カチカチに凍らせた梅を使ったほうがプロ級の味わいに仕上がるのか。その決定打となるのが、食品加工学における「凍結による細胞壁の破壊と氷結晶の膨張」です。
生梅の細胞内には水分が豊富に含まれており、これをマイナス18度以下の冷凍庫で凍結させると、水分が鋭利な氷の結晶へと成長します。この氷結晶が強固な植物細胞壁を内側から押し破るため、鍋に入れて熱を加えた瞬間、閉じ込められていた果汁とペクチン(植物の細胞間を結ぶ天然のとろみ成分)が一気に外へと解け出します。大手冷凍食品メーカー・ニチレイフーズが公開した調理データによれば、生梅を使ったジャム作りで約1時間を要していた煮込み時間が、冷凍梅を活用することで約半分の約30分にまで短縮されることが明らかになっています。短時間で火が通るため、熱による梅特有のフレッシュなアロマ成分の揮発を最小限に食い止め、驚くほどフルーティーな香りを維持できるのです。
さらに、多くの人が疑問を抱く「冷凍梅ジャムアク抜き不要の理由」についても明確な根拠が存在します。ジャム作りに最も適した黄色く熟した「完熟梅」は、樹上や追熟の過程で苦味や渋味の主成分である未熟なポリフェノール類や不溶性タンニンが劇的に減少しています。もともとエグみが少ない状態に加え、冷凍によって組織が均一に崩れるため、短時間の加熱で表面に浮き出るわずかな泡(アク)をお玉で1〜2回すくい取るだけで、澄んだ雑味のない味わいが完成します。数時間も水に浸して旨味やビタミンを流出させる下処理は、完熟の冷凍梅ジャムにおいては完全に不要な工程です。