そもそも、繁殖や管理に多額のコストがかかる犬を、なぜ1万円という捨て値同然の価格で出さざるを得ないのでしょうか。その背景には、ペットショップ特有の流通力学とシビアな在庫管理が存在します。
ペット市場において最も高く売れるのは、生後49日〜60日程度の子犬です。日本の消費者の多くが「できるだけ小さく、幼い姿」を求めるため、生後3カ月を過ぎると需要は急速に減退します。生後4〜5カ月を越えると展示スペースの中で体が大きくなり、ケージが手狭になるだけでなく、食事量や排泄物の量が増え、日々の管理維持費が膨れ上がります。つまり、ペットショップの売れ残りがどうなるかという問題において、店舗側にとって月齢の進んだ犬は「1日留め置くごとに赤字を垂れ流す在庫」へと変化してしまうのです。
安売りされる主な要因は、以下の3つに集約されます。
- 月齢の経過(成長による需要激減):生後半年近くまで売れ残った個体を、店舗の滞留コスト削減のために原価割れで投げ売るケース。
- 外見上の軽微な欠点(ディフェクト):噛み合わせのズレ(アンダーショット・オーバーショット)、ヘルニア(臍ヘルニア・鼠径ヘルニア)、ミスカラー(毛色のムラ)、陰睾(停留精巣)など、健康上に直ちに致命的ではないものの「完品」として高価格をつけられないケース。
- 過剰繁殖による在庫過多:大量仕入れ・大量販売を行うメガチェーンにおいて、繁殖場(パピーミル)から一括で引き取った個体の中に含まれる発育遅延児。
業界内ではかつて、全国展開する一部の大型チェーンについて、週刊誌の潜入報道や元従業員の告発によって過酷な展示環境や劣悪な管理体制が白日の下に晒され、社会的な批判を浴びました。とりわけクーアンドリクの評判をめぐっては、店舗での感染症蔓延や顧客対応の不透明さがネット上や法廷で大きく取り沙汰された経緯があります。こうした薄利多売型の店舗では、犬の健康維持よりも回転率が最優先されがちであり、その歪みが「1万円」という極端な値下げとなって表出しているのが現実です。