生物学には「体が大きい動物ほど細胞の数が多く、細胞分裂の回数も多いため、がんを発症する確率が高くなるはずだ」という仮説があります。しかし現実には、ネズミよりも象の方が圧倒的に長生きし、がんで死亡する割合が極めて低いという矛盾が存在します。これを生物学界で「ペトのパラドックス」と呼びます。
近年の遺伝子研究により、この謎の鍵を握る決定的な事実が判明しました。象のゲノム内には、がんの発生を食い止める「ゲノムの守護神」と呼ばれるがん抑制遺伝子『TP53』が、人間の約20倍(40コピー)も備わっていることが分かったのです。
傷ついたDNAを持つ細胞を迅速に修復し、修復できない場合は細胞死(アポトーシス)を誘発して腫瘍化を防ぐ強固なバックアップシステムを進化の過程で手に入れたこと。そして体重が重い動物ほど代謝率が低く心拍数が穏やかになる「クライバーの法則」が合わさることで、象は巨大な体を維持しながら60年以上もの年月を健康に生き抜くことができるのです。