世界を制したスケーターの母、坂本悦子さんが貫いてきたサポートは、決して過保護なものではなかった。むしろ、娘の自立心を養いながら、心身のコンディションを影で完璧に整える「職人技」とも言える緻密さだ。毎朝5時前のまだ暗い時間帯から始まるリンクへの送迎はもちろんのこと、過酷な体重管理とスタミナ維持を両立させる手作りの食生活管理は、長年にわたり寸分狂わず続けられてきた。
「スケートを辞めたい」と漏らした時期もあった。そんな時でも、悦子さんは決して怒鳴ったり無理強いをしたりせず、ただ黙って温かい料理を出し、娘の言葉に耳を傾けたという。自分の足で立ち、自分の意思で氷に乗ることの尊さを徹底して教え込んだ。その「適度な距離感と揺るぎない愛情」こそが、坂本花織というアスリートの図太いメンタルと素直な精神を形作った秘訣だ。