なぜ、ここまで徹底して家族を隠し続けたのか。その最大の理由は、看板キャラクターである車寅次郎という存在そのものにあった。『男はつらいよ』の寅さんは、テキ屋として全国を旅し、マドンナに恋をしては破れる不器用で自由な独身男だ。
もし観客に「家庭で子どもを可愛がる良きパパ」としての渥美清の顔が見えてしまえば、寅さんの切なさや哀愁にノイズが入ってしまう。日本中のファンが愛した旅人の夢を壊さないこと。それこそが渥美清という稀代の役者が貫き通したプロフェッショナリズムだった。日本の人情喜劇を支えた背景には、家族の理解と協力が不可欠だったのである。