早春の2月や3月、庭先や公園の茂みから「ホッ…ホキョ?」「ケキョ…ケキョ…」といった、途切れ途切れでぎこちないウグイスの声を聞いた経験がある方は多いはずです。思わず「まだ練習中なのかな」と微笑ましくなりますが、その直感は生物学的に完全に正しい解釈です。
ウグイスのさえずりは、生まれつき完璧にプログラムされているわけではありません。基本的な音階の遺伝的素質はあるものの、美しい「ホーホケキョ」を完成させるには、後天的な学習と発声筋のトレーニングが不可欠です。この未熟な鳴き声や練習プロセスのことを、野鳥観察の世界では「ぐぜり(Subsong)」と呼びます。
前年の夏に生まれた若鳥は、初めて迎える春に向けて周囲の成鳥の声を模倣しながら、試行錯誤を繰り返します。人間の言葉でいえば「発声練習」や「ボイストレーニング」を行っている状態です。舌や気管の筋肉を繊細にコントロールし、肺活量を鍛えることで、春本番の4月頃には誰もが認める伸びやかな美声を響かせられるようになります。
また、ベテランの成鳥であっても、冬の間に数カ月間さえずりを休止していたため、春先は発声器官のウォーミングアップとして数日間の調整期間を要することが観察されています。春先に聞こえる不器用な鳴き声は、厳しい冬を乗り越えた鳥たちが命を燃やして新たな季節へ順応しようとしている、生きた証拠なのです。