音楽の第一歩として親しまれるハ長調ですが、その名称の根底には「音名」と「階名」という、日本の音楽教育が長年抱えてきた概念の混同が存在します。
日常会話では「ドから始まる明るい曲調」と簡単に説明されがちですが、厳密な音楽理論において「ド」と「ハ」は異なる次元の言葉です。まず、世界の音名表記の標準において、基準となる音角にはアルファベットの「A」が割り当てられました。これはオーケストラがチューニングを行う周波数(国際標準ピッチA=440Hz)の基点であり、日本で明治時代に西洋音楽を導入した際、いろは歌の最初の文字である「イ」をこの「A」に当てはめました。
ここから音階を順番にたどることで、日本音名イロハニホヘト解説の全体像が明確になります。
音名「A(ラ)」が「イ」となるため、「B(シ)」は「ロ」、「C(ド)」は「ハ」、「D(レ)」は「ニ」、「E(ミ)」は「ホ」、「F(ファ)」は「ヘ」、「G(ソ)」は「ト」と対応します。つまり、ドの絶対的な音名は「ハ」です。その「ハ音」を一番根底の主音(スタート地点の音)として組み立てられた長音階であることから、ハ長調なぜハと呼ばれる理由が論理的に導き出されます。
一方、私たちが口ずさむ「ドレミファソラシド」は、11世紀の修道士グイード・ダレッツォが考案した聖歌の歌詞頭文字に由来するイタリア語の階名です。現代のポピュラー音楽や国際的な共通言語としては、ハ長調Cメジャー英語表記(C Major)が一般に用いられます。クラシック音楽の伝統においてはドイツ音名が根強く残っており、「C-Dur(ツェー・ドゥア)」の呼称が今なお現場で飛び交います。絶対的な音の高さを示す「ハ(C)」と、音階の中での相対的な役割を示す「ド」を区別して捉えることが、音楽理論の混乱を断ち切る必須条件です。