大地震でも倒れない五重塔の謎|心柱の免震技術と日本三大名塔の深層解剖

大地震でも倒れない五重塔の謎|心柱の免震技術と日本三大名塔の深層解剖

今注目を集めている 大地震でも倒れない五重塔の謎|心柱の免震技術と日本三大名塔の深層解剖について、詳しいまとめを分かりやすく掲載しています。

ネット上の情報や一般的な歴史解説において、五重塔に関して広く信じられている言説の中には、専門的な見地からすると明確な誤解や誇張が含まれているケースが散見されます。正しい理解のために、代表的な2つの盲点を検証します。

第1の誤解は、「日本の五重塔は過去の災害で一度も倒れたことがない」という言説です。確かに「地震動による完全な倒壊」という点に限れば、五重塔は驚くべき生存記録を誇っています。しかし、建物としての歴史全体を見渡すと、多くの塔が被災・焼失・倒壊を経験しています。その最大の要因は「火災(落雷や戦火)」と「台風(強風)」です。

例えば、現在そびえる東寺の五重塔は5代目であり、過去に落雷や戦乱によって計4回も焼失しています。また、強風に関しては、地震と全く異なる力学が働きます。地震の揺れをいなす「柔構造」は、左右に柔軟にしなることで地震エネルギーを逃しますが、長時間にわたって一方向から猛烈な風圧を受け続ける台風に対しては、建物の傾きが限界値を超えて風倒する危険をはらんでいます。実際に歴史上、暴風雨によって大破・倒壊した五重塔の記録は複数残されており、「あらゆる天災に対して無敵」というわけではありません。

第2の誤解は、「心柱が巨大な大黒柱のように塔全体の重みを支えている」というイメージです。前述の通り、心柱の多くは各層の骨組み(側柱や梁)と直接連結されておらず、荷重を支えていません。日光東照宮の五重塔のように、最上部から鎖で吊り下げられ、心柱の最下部が地面から数センチメートル浮いている「懸垂式」の心柱すら存在します。心柱は荷重を支えるためではなく、あくまで独立して揺れることでブレーキをかける「動的制振装置」として機能しているのが真実です。

こうした職人たちの意地と技術の葛藤を鮮烈に描いた文学の金字塔が、幸田露伴『五重塔』のあらすじとそこに込められたメッセージです。谷中の感応寺(現・天王寺)に五重塔を建立するにあたり、世渡り下手で「のっそり」と嘲笑されながらも一途な情熱を秘めた大工・十兵衛と、人望厚い名匠・源太が競い合います。周囲の嘲笑を跳ね返して塔を完成させた十兵衛でしたが、落慶の直後、江戸の町を未曾有の大暴風雨が襲います。

激しい嵐の中、師匠である源太の心配をよそに、十兵衛は自らが組み上げた塔の頂上に登り、自らの技術を信じて塔と運命を共にしようと仁王立ちになります。夜が明け、多くの家屋が吹き飛ばされた町の中で、十兵衛の五重塔は寸分の狂いもなく凛として立ち続けていました。この小説が描き出したのは、単なる耐震の物理法則ではなく、「木という生き物と対話し、自然の猛威を受け流す」という日本の伝統工匠が持っていた極限のエンジニアリング哲学と精神性でした。

森 瞳
著者

森 瞳

暮らしを豊かにする便利アイテムや時短アイデアを中心に、実用的な情報をお届けします。