ネット上の情報や一般的なイメージにおいて、「羊肉の香りの強弱は鮮度だけで決まる」「マトンはラムの劣等品である」といった誤解が散見されますが、これは事実と異なります。
香りの強さに最も大きな影響を与えるのは、月齢以上に「どのような飼料を食べて育ったか(グラスフェッドかグレインフェッドか)」という点です。広大な牧草地で牧草のみを食べて育った羊(グラスフェッド)は、葉緑素の影響で清涼感のある青草の香りとしっかりした赤身を持ちます。一方、出荷前の数ヶ月間にトウモロコシや大麦などの穀物飼料を与えられた羊(グレインフェッド)は、特有の香りが極めてマイルドになり、適度なサシ(筋肉内脂肪)が入った日本人好みの柔らかな肉質に仕上がります。
また、羊肉の調理で最もやってはいけない失敗は「中途半端な温度で脂を冷ますこと」です。羊の脂(羊脂)の融点は約42〜45℃と、牛脂(約40℃)や豚脂(約33℃)と比べても格段に高く、人間の体温(約36〜37℃)よりも高くなっています。そのため、冷めかかった中途半端な温度で食べると、口の中で脂が急速に凝固し、舌に膜が張ったような不快なベタつきを感じる原因になります。羊肉料理は「熱々の状態で提供し、温かいうちに食べきる」か、あるいは「脂を完全に落として赤身を中心に食べる」ことが美味しさを引き出す大原則です。