「自分はオク下ではない」と信じ込んでいる人の多くが、カラオケ採点機のスコアを論拠に挙げる。実際、第一興商の「DAM(精密採点シリーズ)」やエクシングの「JOYSOUND(分析採点シリーズ)」において、オク下で歌っても音程正確率90%以上を叩き出し、総合95点前後の高得点を獲得することは極めて容易である。
このカラクリは、カラオケ機器に搭載されているピッチ検出アルゴリズムの仕様にある。機器のマイクが拾った音声信号は、高速フーリエ変換(FFT)などを用いて周波数解析されるが、歌声には基本周波数の整数倍となる「倍音成分」が無数に含まれている。採点システムは、オクターブ違いの音程(完全8度)を同じ「音名(ドレミ)」として統合処理する、あるいは倍音を拾ってメロディラインと一致していると判定する仕組みになっている。
つまり、精密採点機の画面に表示される音程バー(ピアノロール)上では、1オクターブ下を歌っていてもバーにピタリと吸着し、キラキラとしたエフェクトが発生する。採点機は「音程の正確さ」を称賛してくれるが、人間が聴いたときの「声の張りや迫力」は採点基準の対象外であるため、「機械は大絶賛しているのに、部屋の空気は冷え切っている」という皮肉な現象が発生する。