ネット上の感想や要約記事では、時に「蓮子の身勝手な不倫逃避行」「金だけ使わせて夫を裏切った」という単純化された批判が見られます。しかし、当時の法制度と貴族社会の構造を検証すると、全く異なる真実が浮かび上がります。
当時の大日本帝国憲法下における民法では、妻側からの離婚請求権は極めて限定的であり、夫の合意がない限り、女性から法的に離婚することはほぼ不可能でした。白蓮が穏便な協議離婚ではなく、新聞紙上での公開絶縁状という捨て身の策に出たのは、そうしなければ一生伝右衛門の所有物として縛られ続けるしかなかったからです。
また、裏切られた側の夫・伊藤伝右衛門の対応にも、後世に語り継がれる男の矜持がありました。当初は周囲に促されて反論手記を発表したものの、最終的に伝右衛門は「一度は妻にした女について、末代まで一言の弁明も無用」と命じ、一切の追及や損害賠償請求、姦通罪の告訴を取りやめました。この徹底した沈黙が、結果的に白蓮と龍介を法的処罰の危機から救うことになったのです。