ドラァグクイーンの歴史は、単なる華やかなエンターテインメントにとどまらず、社会的な抑圧や差別に抗ってきたクィア(性的マイノリティ)たちの闘争の歴史と深く結びついています。
決定的な転換点となったのは、1969年に米ニューヨークで起きた「ストーンウォールの反乱」です。警察による同性愛者への理不尽な手入れに対し、最前線で抵抗の声を上げた中心人物の中には、マーシャ・P・ジョンソンをはじめとするトランスジェンダー女性やドラァグクイーンたちがいました。彼女たちにとって、過剰な装いは自らの尊厳を主張するための「武器」でもあったのです。
1970年代から80年代にかけては、ニューヨークのアンダーグラウンドで黒人やラテン系のクィアたちによる「ボール・カルチャー」が発展。ダンスバトル「ヴォーギング」や過激なファッションを競い合うコミュニティが形成され、マドンナの楽曲『Vogue』などを通じて世界へ伝播していきました。
そして2000年代以降、この文化をメインストリームのポップカルチャーへと押し上げたのが、アメリカのリアリティ番組『ル・ポールのドラァグ・レース』です。伝説的クイーンのル・ポールがホストを務める同番組は、メイク技術、衣装制作、演技、リップシンクバトルで競い合う過酷なオーディション番組としてエミー賞を連覇。世界的なメガヒットとなり、ドラァグクイーンは誰もが憧れるトップエンターテイナーとしての地位を不動のものにしました。