山崎努は単なる演じ手にとどまらず、傑出した「文筆家」としても知られています。1990年に上梓された代表的著書『俳優のノート』(文藝春秋/平凡社ライブラリー)は、演劇界・映画界における不朽の教科書として今なお読み継がれています。
シェイクスピアの『リア王』に挑む際の日々の苦悩、役を身体に憑依させるまでの克明な心理描写、演出家や共演者とのスリリングな対話が赤裸々に綴られた同書は、俳優志望者のみならず多くのクリエイターや読書人に衝撃を与えました。その後も『カメボコ問答』や『柔らかな犀の角』など、独自の鋭い観察眼とユーモアが光るエッセイを発表しています。
近年の山崎努は、肉体を激しく酷使する映像撮影から距離を置く一方で、自らの思索や人生の断片を言葉として紡ぐ執筆活動に親しんでいます。公の場でのロングインタビューこそ稀ですが、時折語られる言葉には、老いを受け入れながらも研ぎ澄まされた表現者の魂が息づいています。