震災時およびその後のインターネット上では、極限状態が生み出したさまざまな憶測や都市伝説が飛び交いました。その多くは現場の事実とは大きく乖離しています。
まずネット掲示板やSNSで散見された「遺体の身元確認はDNA鑑定ですべて即座に行われた」という言説は明確な誤解です。前述の通り、震災直後の身元特定の8割以上は、家族による顔貌や身体特徴、衣服・所持品の目視確認でした。DNA鑑定はあくまで他の手段で特定できない場合の最終手段であり、結果が出るまでに当時は数週間から数カ月を要しました。「科学捜査が万能ですべてを瞬時に解決した」という物語は、現場の泥臭い手作業と遺族の過酷な対面作業を覆い隠すものです。
また、震災初期に流布した「遺体が放置され略奪が横行した」「被災地で大量の不法埋葬が行われた」といった言説も事実に反します。火葬場の処理能力を大幅に超えたため、一時的に「仮埋葬(土葬)」が行われた自治体(宮城県石巻市や東松島市など)は実在しますが、これは法医学的処置と将来の改葬を前提に、一体ごとに埋葬台帳とGPS位置情報、骨番号を厳格に管理して執行された公的措置でした。その後、全遺体が掘り起こされて正式に火葬され、遺族へ引き渡されています。人間の尊厳を無視した不当な投棄や隠蔽は一切存在しません。