ピアノの鍵盤を改めて観察してみると、ある明白な物理的特徴に気づきます。標準的なアコースティックピアノは白鍵52鍵・黒鍵36鍵の合計88鍵で構成されていますが、黒鍵は均等に並んでいるわけではありません。「2本」「3本」のまとまりで交互に配置されており、「ド(C)とシ(B)」の間、および「ミ(E)とファ(F)」の間には黒鍵が1本も挟まれていないのです。
音楽理論における「半音」とは、ピアノの鍵盤上で「すぐ隣にある最も近い鍵盤への移動」を意味します。音響物理学の定義では、12平均律における半音の周波数比は1:2^(1/12)(音程の幅として100セント)と厳密に規定されています。通常の音(例えばソ)にフラットが付いた場合、すぐ左隣にある黒鍵を押すことで100セント低い半音を鳴らします。ところが「ド」の鍵盤からすぐ左隣(半音下)へ視線を移すと、そこにあるのは黒鍵ではなく、白鍵の「シ」です。
つまり、Cフラットの鍵盤位置は、物理的に「シ」の白鍵そのものになります。「フラット記号=必ず黒鍵を弾く」という解釈は、初心者が陥りがちな最大の誤解です。フラットの本来の機能は「黒鍵へ行くこと」ではなく、「基準となる音から半音(100セント)低い隣の鍵盤へ移動すること」に過ぎません。ドの半音下を鳴らそうとすれば、鍵盤の配置上、必然的にシの白鍵を押すことになります。