双眼鏡選びにおいて最も流布している誤解が、「倍率が高ければ高いほど遠くがよく見える」という短絡的な認識です。百均の売り場でも「高倍率8倍」というポップが消費者の目を引きますが、光学機器において「倍率の高さ」と「視界の明るさ・広さ」は完全なトレードオフ関係にあります。
レンズの直径(対物レンズ有効口径)が小さいまま倍率だけを引き上げると、ひとみ径(目に入る光の束の太さ)が極端に細くなります。人間の瞳孔は、暗いライブ会場では直径5mm〜7mm程度まで開きますが、百均の小型8倍モデルから射出される光の束はわずか2mm前後に過ぎません。その結果、覗いた瞬間に「薄暗いストローの穴から遠くを覗き見ている」ような圧迫感と暗闇が生じます。
さらに、実視界の狭さも見落とされがちな盲点です。倍率を無理に上げた百均双眼鏡は視野角が著しく狭いため、ステージ上でアーティストが数歩左右に移動しただけで視界からロストします。フォーカスを合わせ直し、再び視界に捉えようと躍起になっている間に曲が終わってしまうという悲劇は、こうした光学特性の無理解から生じるものです。