彼女の代表作を挙げる際、外すことができないのがNHKラジオ第1の看板番組『ラジオ深夜便』だ。深い夜の静寂のなか、語りかけるようなアンカーとしての佇まいは、数知れずのリスナーの夜に寄り添ってきた。耳元で囁くような落ち着いた声調は、不安な夜を過ごす人々にとって唯一無二の灯火であったと言える。
一方で、NHK Eテレの『日曜美術館』や『クラシック音楽館』といった質の高い教養番組で見せたナレーションの冴えも見事だった。画面に映し出される美術品の質感や、オーケストラが紡ぎ出す音の余韻を決して邪魔することなく、作品の持つ美を何倍にも引き立てる。言葉の引き算を知り尽くした職人技とも言える語りは、伝統的な教養番組のクオリティを底上げする役割を果たした。