日本におけるタトゥーの社会的・法的ポジションを語る上で欠かせないのが、司法の歴史的判断です。長年、警察当局はタトゥー施術を「医師免許を持たない者が行う医行為(医師法第17条違反)」として取り締まってきました。
しかし、大阪の彫師・増田太輝氏が争った裁判において、2020年9月、最高裁判所第二小法廷は「タトゥー施術は美術的な装飾行為であり、医療関連性を持たないため医行為には当たらない」として無罪判決を確定させました。この判決により、彫師という職業が刑事罰の対象から法的に脱却を果たしたことは周知の通りです。
だが、タトゥー医師法判決の現在が完全に平穏無事かといえば、実態は異なります。無罪判決は「医師法違反ではない」と示したに過ぎず、彫師の公的資格制度やスタジオの衛生基準を定めた新法制が確立されたわけではありません。一般社団法人日本タトゥーイスト協会などの民間団体がガイドラインを策定し、感染症予防や自主規制を呼びかけているものの、法的な安全網は依然として過渡期にあります。
特に注視すべきはタトゥーインク成分の危険性です。欧州連合(EU)では2022年以降、化学物質規制(REACH規則)に基づき、アレルギー反応や発がん性が疑われる数千種類の有害化学物質を含むタトゥーインクの使用・販売が厳格に禁止されました。日本国内には同等レベルの公的成分規制が存在せず、海外からの個人輸入インクが施術に使われる例も散見されます。
インクに微量に含まれるニッケル、コバルト、酸化鉄といった重金属は、アレルギー性皮膚炎の原因となるだけでなく、MRI(磁気共鳴画像)検査を受ける際に電磁波と反応して高熱を発し、火傷(熱傷)を負うリスクを孕んでいます。近年は医療機関の問診票でタトゥーの有無が厳しく確認され、熱傷リスクの承諾書提出や検査拒否を求められるケースが増えています。身体の自己決定権の代償として、こうした医療アクセス上の不利益が生じる事実は見落とされがちです。