取材班が当事者ネットワークや精神科医療現場を取材する中で、最も痛烈に響いたのは「受診を決意した瞬間から、実際に診察室に入るまでの過酷さ」でした。SNSやコミュニティ上では、「何十軒もの心療内科に電話したが『初診は半年先まで満杯』と断られた」「予約開始日の午前0時にアクセスが集中し、サーバーダウンで予約すら取れなかった」という悲痛な叫びが日常的に溢れています。
なぜここまで大人のADHD初診予約が取れない理由が深刻化しているのでしょうか。第一に、成人の発達障害を正確に鑑別できる日本精神神経学会専門医や、WAIS-IV検査を正確に採点・解釈できる公認心理師の絶対数が著しく不足している点が挙げられます。通常のうつ病再診であれば5分から10分の診療時間で済むのに対し、ADHDの初診は幼少期からの生育歴や生活歴を掘り起こすため、最低でも30分から60分の枠を要します。経営効率を重視せざるを得ないクリニックにおいて、1日に受け入れられる初診患者数はせいぜい2人から4人が限界なのです。
都内のIT企業に勤務する30代男性Aさんは、当時の壮絶な体験を手記としてこう明かしています。「度重なるタスクの失念でプロジェクトから外され、限界を感じて受診しようとしました。しかし都内の専門クリニック12軒すべてに断られ、予約が取れたのは4ヶ月先。その待機期間中にも仕事でミスを犯し、結局診断が下りる前に休職へ追い込まれました。心が折れそうな時期に数ヶ月も待たされる現実は、当事者にとって拷問に近いものがあります」。
海外では米国を中心に「ADHD Medication Online(月額130ドル前後で来院不要のオンライン診察・処方)」といった遠隔プラットフォームが台頭していますが、日本国内においては乱用防止の観点から法規制が厳格です。特に依存性や転売リスクが懸念される中枢神経刺激薬(コンサータ)に関しては、対面での厳格な問診と流通管理システムへの患者・医師双方の登録が義務付けられており、安易なオンライン診療での即日処方は認められていません。初診のハードルを乗り越えるためには、キャンセル待ち登録の活用や、初診枠を定期開放するクリニックの公式SNS通知の監視など、戦略的なアプローチが不可欠です。