ネット上には「水を大量に飲めばカフェインは早く尿として排出される」「サウナで汗を流せばデトックスできる」といった俗説が散見されますが、これらは生化学的に明確な誤りです。
カフェインの代謝を司っているのは腎臓ではなく、主に肝臓の薬物代謝酵素である「CYP1A2(シトクロムP450 1A2)」です。CYP1A2がカフェインをパラキサンチンなどの副産物に分解する速度は酵素の活性レベルによって厳密に制御されており、水分を多く摂取して排尿回数を増やしたところで、血中カフェインの分解速度自体が劇的に加速することはありません。汗に含まれるカフェイン量もごく微量に留まります。
さらに、この肝臓酵素の活性には遺伝的な個人差が極めて大きいことが判明しています。欧米および国内のゲノム解析データによれば、日本人を含む集団には「カフェイン代謝が速いタイプ」と「遅いタイプ」が存在します。代謝が遅い遺伝子型を持つ人の場合、カフェインの半減期は8時間以上、完全消失に16時間以上かかるケースすら報告されています。このタイプが夕方16時にコーヒーを飲むと、翌朝の午前中まで覚醒成分が体内を循環し続けることになります。
また、加齢によって肝機能およびCYP1A2の活性は自然低下します。「20代の頃は夜に缶コーヒーを飲んでも平気だった」という成功体験を40代、50代になっても引きずっていると、気づかないうちに中途覚醒や早朝覚醒といった深刻な不眠症状へと直結していくのです。