難病ジャーナリズムの現場を長年取材してきた編集部として、強く警鐘を鳴らさなければならない深刻な社会問題があります。それは、完治を望む患者や家族の心理的間隙を突く「高額自由診療・代替医療ビジネス」の暗躍です。
精神科医エリザベス・キューブラー=ロスが提唱した「死の受容の5段階モデル」(否認・怒り・取引・抑鬱・受容)は、難病宣告を受けた患者とその家族の心理過程にもそのまま当てはまります。特に初期の「否認(何かの間違いだ)」や「取引(大金を払ってでも治る方法があるなら何でもする)」の心理フェーズにある時期は、もっとも科学的思考が麻痺しやすい極めて危険なタイミングです。
家族社会学的な視点で見れば、ここには「家族の共依存的トラップ」が潜んでいます。「患者のために何かしなければ見捨てることになるのではないか」という家族側の罪悪感が、患者本人の意思を置き去りにし、「絶対に治る」と謳う怪しげなクリニックの自由診療(1回数百万円の根拠なき幹細胞治療や特殊な点滴療法、エネルギー療法)へと突き動かしてしまうのです。患者自身も「家族が自分のために必死になって探してくれたのだから断れない」と、心身の限界を超えて付き合ってしまう悲劇が繰り返されています。
【プロの結論】おすすめできる情報・慎重になるべき情報の判断基準
健全な家族関係を維持するためには、家族間であってもお互いの「心理的バウンダリー(境界線)」を尊重することが欠かせません。告知を受けた患者が今何を望んでいるのか、残された時間でどう生きたいのかに静かに耳を傾けること。「治すこと」に執着するあまり、目の前にいる患者本人の「尊厳ある今この瞬間」を見失ってはなりません。