SNSや医療Q&Aサイトに蓄積された患者の手記を分析すると、受診を先延ばしにした人々の共通項が浮き彫りになります。そこには「我慢すれば治る」という誤信が招いた壮絶な修羅場が生々しく記されています。
「市販の強めのロキソニンを数時間おきに飲んで仕事に行っていたが、4日目の夜に突然唾液すら激痛で飲み込めなくなった。ティッシュ箱を抱えて一晩中よだれを吐き出し、翌朝病院へ駆け込んだときには口が1センチも開かず即切開。医師から『あと半日遅れたら窒息していた』と告げられた」(30代男性・会社員の手記より)
ネットの知恵袋やコミュニティ掲示板で目立つのが、「扁桃周囲膿瘍に市販薬が効かない理由を知らなかった」という後悔の声です。ドラッグストアで市販されている鎮痛解熱薬は、一時的に脳が感じる痛みのシグナルを麻痺させるに過ぎません。炎症の火元である細菌増殖を食い止める力はなく、むしろ「痛みが和らいだ」と錯覚している間に膿瘍が喉の奥深部へと拡大し、結果として扁桃周囲膿瘍の放置が危険な真相を身をもって体験することになります。
さらに恐ろしいのは、扁桃周囲膿瘍の重篤化リスクと合併症の深刻さです。喉の周囲にある結合組織の隙間は、下方向へとトンネルのように胸の中(縦隔)まで直通しています。膿瘍を放置すると、感染が喉から首の深部組織へ広がる「深頸部感染症」、さらには心臓や大血管が収まる胸腔内へと達する「下行性壊死性縦隔炎」へと進展します。
日本胸部外科学会などの集計データによれば、下行性壊死性縦隔炎にまで波及した場合の致死率は20%〜40%に達し、胸を大きく切り開く開胸手術や集中治療室(ICU)での長期管理が不可避となります。また、感染が血流に乗る「敗血症」や、内頸静脈内に感染性血栓を作る「レミエール症候群(Lemierre症候群)」といった致命的な病態を招く事例も報告されています。「たかが喉の腫れ」と侮ることが、文字通り生命を危険に晒すのです。