「手術をしない自然治癒は可能なのか」という疑問を持つ方は少なくありません。骨折の規模がごく軽微で、筋肉の挟み込みがなく、複視も消失傾向にある場合は保存療法(経過観察)が選択されます。しかし、明らかな筋肉の嵌頓(かんとん:挟まり)があるにもかかわらず放置した場合、取り返しのつかない後遺症が残ります。
筋肉(特に下直筋や下斜筋)が折れた骨の隙間に挟まれた状態が続くと、局所の血流不全から筋組織の虚血壊死や線維化(癒着)が進行します。受傷から1ヶ月以上経過すると、骨折部を整復しても筋肉そのものが柔軟性を失い、恒久的な眼球運動障害および複視が残存してしまいます。
また、眼窩下神経の圧迫を放置すると、神経変性が固定化し、冷感や接触刺激に対する違和感が生涯続くリスクを抱えることになります。「そのうち自然に治るだろう」という楽観視は、視野と表情の機能を大きく損なう最大の落とし穴です。