高熱や激しい咳が出ないからといって、決して安心はできない。むしろ高齢者においては、発熱の欠如こそが重症化の最大の盲点となる。高齢者の体内では免疫応答の低下に伴い、炎症反応として熱を上げる体力すら残されていないケースが少なくないからだ。発熱という顕著なバロメーターが作動しないまま、病原体は肺の深部へと急速に侵食していく。
専門医が指摘する「隠れ前兆」の代表例が、突発的な行動変化や認知機能の衰えだ。昨日まで普通に会話できていた家族が、急に辻褄の合わないことを言い始めたり、ボーッと天井を見つめ続けたりする。あるいは、理由のない強い倦怠感や傾眠、食事中に頻繁にむせる、食欲が途絶えるといった症状も、肺での深刻なトラブルを示す微小なSOSである。家族が「ただの老衰や疲れだろう」と見過ごしてしまうことこそが、命取りの猶予を生み出してしまう。