飲食店の閉店といえば「客数減少による採算悪化」が真っ先に疑われがちですが、スプリングバレーブルワリー京都の場合は構造が大きく異なります。取材と企業リリースから浮かび上がる決定的な閉店理由は主に3つの要素に集約されます。
第1の理由は、親会社であるキリンビールが推し進める「スプリングバレーブランドの戦略転換」です。2010年代半ば、クラフトビールの黎明期において直営ブルワリーレストランは「クラフトビールの美味しさとペアリングの文化を啓発する発信基地」として極めて重要な役割を果たしました。しかし2021年以降、「SPRING VALLEY 豊潤<496>」や「シルクエール<白>」といった家庭用缶製品が全国発売され、コンビニやスーパーで日常的に手に入る時代へと突入。ブランドの主戦場が「一部の直営拠点での体験提供」から「全国の家庭・一般飲食店への浸透」という巨大なマスマーケットへ移行したのです。
第2の理由は、店舗賃貸借契約の満了期日です。関係者の証言によると、同店が入居していた町家物件は定期借家契約等の節目を迎えており、コロナ禍を経て飲食事業全体のポートフォリオを見直すタイミングと合致しました。
第3に、歴史的木造建築の維持・醸造設備の運用コストが挙げられます。築約100年の町家内部に最先端の小型醸造タンクを備え、厳格な温度管理と衛生基準を維持し続けるには莫大なコストがかかります。ブランドの認知拡大という当初のミッションを十全に達成した結果、惜しまれつつも契約満了に伴う発展的撤退という経営判断が下されました。