日本人の感覚では「歴史上の偉人を漫画でパロディ化する」行為は日常茶飯事に見えるかもしれません。しかし、モンゴルにおいてチンギス・ハンが占める位置付けは、他国の歴史的人物のそれとは根本的に異なります。
13世紀に遊牧民を統合し、ユーラシア大陸に跨る広大な帝国を打ち立てたチンギス・ハンは、モンゴル人にとって「国家と民族のアイデンティティそのもの」です。社会主義時代にはソ連の影響下でその存在を公に称えることが禁じられていた暗黒期があり、1990年の民主化以降、民族の誇りを取り戻す精神的支柱として急速に再評価された歴史的経緯があります。
首都ウランバートルの国際空港や広場、最高額面の紙幣に至るまで肖像が掲げられていることからも分かる通り、彼らはチンギス・ハンを「過去の軍事指導者」ではなく「国家の祖」として心から尊崇しています。したがって、その顔に猥褻な落書きを施す行為は、単なる歴史パロディではなく、モンゴル民族の尊厳に対する直接的な冒涜と受け止められたのです。ダグワドルジ氏の怒りは、まさに国民全体の感情を代弁したものでした。