日本レコード大賞を語る上で避けて通れないのが、長年にわたり週刊誌やネット上で囁かれ続けてきた「出来レース・やらせ疑惑」の存在です。特に2010年代半ばに報じられた大手芸能プロダクションによる働きかけ疑惑などは、番組の信頼性に少なからず影を落としました。
なぜこのような噂が根強く燻るのでしょうか。その根本的な原因は、日本作曲家協会を中心とした「審査員制度」の不透明さにあります。選考委員は、日本作曲家協会の役員をはじめ、各新聞社の音楽担当記者、音楽評論家、民放キー局のプロデューサーら数十名で構成されています。審査員それぞれの個人的な音楽観や、業界内の力関係、放送局との付き合いが密室協議の中で作用しやすい構造が、長年批判の的となってきました。
当時、大手レコード会社の元制作担当者が残した手記や証言によると、「優秀作品賞(大賞候補)にノミネートされる10枠を巡り、各レコード会社や事務所が自社アーティストを押し込むべく熾烈なロビー活動を展開していたのは公然の秘密だった」と語られています。しかし、2020年代以降はその様相が一変しました。
SNSの普及とストリーミングデータの透明化に伴い、リスナーがBillboard JAPANチャートやSpotify、Apple Musicなどの再生データをリアルタイムで把握できるようになったためです。かつてのように「誰も聴いたことがない楽曲」を審査員の密室判断だけで大賞に据えれば、放送直後からX(旧Twitter)などのSNS上で凄まじい大炎上を招くリスクがあります。近年の選考では、客観的なストリーミング再生数やSNSでのバイラル指標が事実上の「防波堤」として機能しており、審査員の主観だけで決定できる余地は極めて狭くなっています。