『ふしぎ遊戯』の全エピソード中、読者・視聴者から「最大級のトラウマであり、最高峰の感涙回」として語り継がれるのが、柳宿の壮絶な戦死です。原作コミックス第7巻〜第8巻、そしてTVアニメ版における第33話「最後の光明」で描かれたその最期は、当時の少女漫画アニメとしては異例なほど生々しく、痛切なヒロイズムに満ちていました。
舞台は、玄武の神座宝を求めて訪れた極寒の北甲国・狼嶺(ろうれい)。一行を強襲したのは、青龍七星士の中でも異形の獣人として圧倒的な殺傷能力を誇る尾宿(あしたれ)でした。仲間たちが極寒と吹雪に足止めされる中、柳宿は単身で尾宿の前に立ちはだかります。朱雀七星士随一の怪力を持つ柳宿と、野生の本能で襲いかかる尾宿の一騎打ちは熾烈を極めました。
尾宿の鋭利な牙と爪によって喉元や胴体を深く裂かれ、大量の血を流しながらも、柳宿は自らの神力(怪力)を限界突破させて巨大な岩盤を叩き落とし、尾宿を道連れにして撃破します。しかし、柳宿の受けた傷はすでに助かる見込みのない致命傷でした。制作関係者の回想録や当時のアニメ誌インタビューによると、この戦闘シーンは「少女向け作品の枠組みを取り払い、仲間への献身を極限のリアリズムで描く」という演出意図のもと、徹底した緊迫感をもって制作されたと記録されています。
死の間際、柳宿が取った行動こそがファンの涙腺を崩壊させました。仲間たちが閉じ込められた洞窟の入り口を塞ぐ巨岩を、残された全生命力を振り絞って押し退けた柳宿は、美朱たちを安心させるために自らの血まみれの傷口を雪で隠し、いつもの軽やかな笑顔を作って見せたのです。「男だとか女だとかじゃない、あたしは美朱を愛した一人の人間」――その誇り高い言葉を遺し、静かに目を閉じた柳宿の姿は、平成アニメ史に燦然と輝く名シーンとして今なお語り継がれています。