普段、草原で見かける緑色のバッタは、他の個体を避けてひっそりと暮らす単独性の昆虫です。しかし、条件が揃うと体色、骨格、そして性格までもが劇的に変貌します。この驚くべき生物学的現象を「相変異(あいへんい)」と呼びます。
大群の主犯格であるサバクトビバッタは、普段は「孤独相(こどくそう)」として緑色の保護色をまとい、翅(はね)も短く跳躍力で天敵から逃げます。ところが、乾燥地帯に異例の豪雨が降り注ぎ、突発的に植物が繁茂すると爆発的に繁殖が進みます。その後、乾季が訪れて植物が枯死すると、生き残った幼虫たちが残りわずかな緑地へと強制的に密集させられます。
幼虫たちの体が互いに激しく触れ合い、特に後脚の感覚毛が継続的な刺激を受けると、中枢神経系でセロトニンなどの神経伝達物質が急増します。このシグナルが引き金となり、脱皮を経て現れる個体は、全く別の生物であるかのような「群生相(ぐんせいそう)」へと変化を遂げます。
群生相化したバッタは、警戒色である黒と鮮烈な黄色の毒々しい外見へと変わり、胸部が発達して長距離を飛行できる長い翅を持ちます。さらに恐ろしいのは行動の変化です。群れることを極端に好み、仲間同士でフェロモンを放ち合いながら一体となって直進し始めます。食欲は底なしとなり、植物のみならず仲間の死骸や共食いすら厭わない獰猛な群れへと進化を遂げるのです。