日本のフードカルチャーにおいて、パンはもはや主食の枠を超え、嗜好品としての洗練を極めている。かつてフランスの天才パン職人エリック・カイザーが天然酵母と長時間発酵の技術を携えて来日し、日本のバゲットやクロワッサンの水準を一気に引き上げた記憶を持つパン好きは少なくないだろう。現在、その職人芸のエッセンスが、驚くべき速度でリテールベーカリー産業全体へと浸透しているのだ。
巨大スーパーのインストアベーカリーは、もはや「手軽さ」だけを売りにする場所ではない。製パンの科学的な分析、欧州産オーブンの導入、そして熟練のベーカリーマネージャーによる温度管理の徹底によって、街角の小さな名店と変わらないクオリティをチェーン展開する規模感で成立させている。大量生産の無機質さを打ち破る情熱が、オーブンのガラス窓の向こうで渦巻いている。