昇殿して個人的な御祈祷(厄除けや商売繁盛、安産祈願など)を受ける場合や、個人的な感謝の念から数千円から数万円単位のまとまった金額を奉納したい場合、小銭ではなく紙幣を納めるのが一般的です。この際の作法についても、多くの参拝者が疑問を抱えています。
拝殿前の賽銭箱に直接紙幣を入れる場合、裸のお札をそのまま投げ込むのは避けたいところです。風で吹き飛んでしまったり、雨天時に濡れて汚損したりするリスクがあるためです。直接入れる場合は、三つ折りまたは四つ折りに丁寧に畳んで、賽銭箱の隙間から丁寧に滑り込ませるのがスマートです。新札(ピン札)でなければならないという厳格な法規はありませんが、破れや酷い皺のない、清潔なお札を用意するのが敬意の表れとなります。
さらに格式を重んじる場合や、社務所・授与所の窓口で直接手渡す場合は、のし袋(金封)に包むのが確実なマナーです。この際の形式は以下の通り整理されます。
- 水引の選び方:通常のお参りや御礼、祈祷であれば「紅白の蝶結び(花結び)」を用います。蝶結びは「何度あっても良いおめでたいこと」を意味します。※病気平癒や厄除けなど「二度と繰り返したくない祈願」の場合は「結び切り」を選ぶのが正式です。
- 神社の表書き:上段中央に「御初穂料」または「御神前」「御玉串料」と濃い墨の筆(または筆ペン)で書きます。下段には祈願者本人の氏名をフルネームで記載します。
- お寺の表書き:上段中央に「御布施」と書くのが最も普遍的です。下段には氏名、あるいは「〇〇家」と記載します。
- 中袋(内袋)の書き方:表面中央に「金 壱萬圓也」のように旧字体の漢数字(壱、弐、参、伍、拾、萬)で金額を記し、裏面左下に郵便番号・住所・氏名を明記します。これにより、寺社側の会計管理が格段にスムーズになります。
現場で最も切実なトラブルが、「財布を開けたら一万円札しかなく、小銭が一切見当たらない」という状況です。このとき、絶対に避けるべきなのが、社務所でお守りやお札を購入するふりをして無理に両替を迫ったり、ましてや他人の参拝者を捕まえて両替を懇願したりする行為です。寺社の窓口は銀行ではありません。釣銭用の準備金には限りがあり、業務を圧迫してしまいます。
小銭がない場合の最善の対処法は3つあります。第1に、境内に自動販売機があれば飲料を購入して崩すこと。第2に、無理にその場で小銭を作ろうとせず、「本日は手ぶらで誠心誠意の拝礼のみを捧げ、後日改めて小銭を用意して参拝する」という選択です。神道では「真心を込めた拝礼(手合わせ)」そのものが最も尊ばれるため、お金を入れずに手を合わせることは決して罪ではありません。第3に、感謝の度合いに応じて千円札などをそのまま納める決断をすることです。状況に応じた柔軟な大人の対応が求められます。