「部屋の中が静かになればなるほど、耳の奥で『シーン』や『キーン』という高音が鳴り響いて気になる」という悩みを訴える人は少なくありません。この夜静かな時に聞こえる音の正体は耳鳴り、とりわけ医学的に「生理的耳鳴り」と呼ばれる正常な生体反応です。
音響医学の研究において、外部の音を完全に遮断した無響室(環境ノイズ10dB以下)に健常な被験者を入室させる実験を行ったところ、実に94%の被験者が何らかの耳鳴りを知覚したという確固たるデータが報告されています。
人間の耳と脳には、周囲が騒がしいときには感度を下げ、静まり返ると微小な信号を拾おうと自動で増幅する「オートゲインコントロール(AGC)」機能が備わっています。外部からの音刺激が途絶えた極限の静寂状態では、聴覚神経が自発的に発信している微小な電気信号や、内耳の血管を流れる赤血球の摩擦音が「音」として脳内で認識されてしまうのです。
「耳鳴りがする=耳の病気」と短絡的に結びつけて不安を募らせると、脳の扁桃体が興奮してさらに聴覚感度が高まるという悪循環に陥ります。完全な無音を作ろうとするのではなく、適度な背景音を取り入れることが快眠のための実用的な解決策となります。