口元のトラブルを訴える患者の診察現場において、医師が最初に行うのが「症状の発生部位」と「病変の性状」による鑑別です。ネット上では混同されがちですが、口唇炎との違いや、ウイルス感染症である口唇ヘルペスとの相違点を正確に理解しておかなければ、誤った市販薬を選んで症状を悪化させることになりかねません。
まず、口唇炎は唇全体(上唇・下唇の赤唇部)がカサカサと乾燥し、皮がむけたり腫れたりする状態を指します。一方、口角炎は上下の唇が合わさる「口の端(口角)」に局所的な亀裂、びらん(ただれ)、出血、かさぶたが生じる疾患です。物理的に最も可動性が高く、会話や食事のたびに皮膚が引っ張られる部位であるため、一度亀裂が入ると創傷治癒が遅れやすいという構造的な弱点を抱えています。
また、臨床現場で極めて慎重な見極めが求められるのが口角炎とヘルペスの違いです。口唇ヘルペスは「単純ヘルペスウイルス」の初感染または再活性化によって生じます。発症の初期段階で患部に「ピリピリ」「チクチク」とした違和感や熱感を伴い、数時間から1〜2日後に小さな水疱(水ぶくれ)が密集して現れるのが決定的な特徴です。水ぶくれが破れてかさぶたになるプロセスを辿るヘルペスに対し、通常の口角炎は水疱を形成せず、境界の明瞭な裂け目や白っぽい浸軟(ふやけ)が主体となります。ウイルスが原因であるヘルペスには抗ウイルス薬が必要であり、抗真菌薬や一般的な軟膏では太刀打ちできません。