痛みの強さランキングを巡っては、前述の「ユードル神話」以外にも深刻な誤解が数多く存在します。正しく理解しておかなければ、適切な治療機会を逸することになりかねません。
第1の盲点は、「激痛=命に関わる重篤な病気」とは限らないという事実です。尿路結石や三叉神経痛、群発頭痛は人間を気絶させるほどの痛みを引き起こしますが、それ自体が直接の死因になることは極めて稀です。逆に、致死率が非常に高い大動脈解離や初期の悪性腫瘍、無痛性心筋梗塞などは、痛みが軽微であったり全く自覚症状がなかったりします。「痛みが我慢できるレベルだから大丈夫」という判断は、医療上もっとも危険なバイアスです。
第2の誤解は、「痛みは我慢すれば神経が慣れて鈍くなる」という根性論です。最新の神経科学において、これは完全な誤りであることが証明されています。激しい痛みを放置すると、脊髄後角や大脳皮質の痛覚回路でシナプスの伝達効率が上昇し、痛みの閾値が下がる「中枢感作(ワインドアップ現象)」が起こります。つまり、痛みを我慢すればするほど神経系が焼き付いた状態になり、わずかな刺激でも激痛を感じる難治性の慢性痛へと移行してしまうのです。